Clostridium difficile関連性腸炎 (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

Clostridium difficile infection ; CDI

 Clostridium difficile(C. difficile)は芽胞形成性の偏性嫌気性グラム陽性球菌である.1935年に新生児の糞便から初めて分離され,1978年に動物実験からクリンダマイシン投与後の偽膜性腸炎がC. difficileによることが初めて証明された1).2010年に作成されたSHEA/IDSAのガイドラインではCDADからCDI(Clostridium difficile infection)へと名称が変更された2).CDIの定義は (1) 24時間以内に3回以上の軟便~下痢があること,(2) 毒素産生性のC. difficileの便検査からの証明やtoxinの検出,大腸内視鏡もしくは病理組織所見による偽膜性腸炎の証明がされることである.

 CDIの発症危険因子は65歳以上の高齢者,易感染性患者,重度の基礎疾患,長期入院,胃酸の長期間抑制されている患者などが挙げられている.便培養は診断に時間がかかるため糞便中のtoxinを直接計測する酵素免疫測定法(enzyme immuno assay ; EIA法)が使用されることが多い.C. difficileの主な腸管病原性は産生される毒素にある.toxin Aは好中球遊走因子を有する強力な腸管毒素(enterotoxin)であり,腸液の分泌や腸管血管,粘膜の透過性を亢進させ,腸液の増加と蛋白の漏出による下痢を来す.toxin Bは細胞傷害性毒素(cytotoxin)であり,toxin Aの存在下で細胞透過性が亢進していると,toxin Bがより細胞内に入り込みやすくなり細胞傷害性を発揮する.toxin Aは,細胞培養系の腸管上皮細胞のtight junctionを破壊する作用があり,腸管粘膜を傷害する病原性があると考えられる.toxin Bはtoxin Aの10倍細胞毒性が強いと言われるが,toxin B単独では細胞膜の破壊もtight junctionの破壊も起こらないため,toxin Bの病原性はtoxin Aとの相互作用にあると考えられていた.しかし2000年にtoxin A-/toxin B+菌株によるout breakが起こり,両方が測定できる検査キットが開発された.日本国内におけるtoxin A-/B+株は9~40%あると報告されている.

 CDIは臨床的に無症候性保菌者,単なる抗菌剤関連下痢症,偽膜のない下痢症,偽膜性腸炎,劇症偽膜性腸炎の5型に分類される3).偽膜を形成しないC. difficile腸炎の内視鏡像は斑状の発赤やアフタ様病変(Fig. 1)と言われているが,特異的ではなく,内視鏡所見だけでは非偽膜性のCDIを診断することは困難である.

Fig. 1 非偽膜性C. difficile腸炎.多発する斑状の発赤やアフタ様病変をS 状結腸~直腸に認める.
Fig. 1 非偽膜性C. difficile腸炎.多発する斑状の発赤やアフタ様病変をS 状結腸~直腸に認める.

偽膜性腸炎は半球状の多発する黄白調隆起で,S状結腸~直腸に好発する(Fig. 2).偽膜はtoxin A,Bによる腸管粘膜の凝固壊死により,残存する腺管の拡張と,そこから排泄された粘液,線維素,上皮残屑,好中球から形成される1).CDIの治療は前述のガイドラインにより白血球数,Cr値をもとに,(1) 初発で軽症~中等症,(2) 初発で重症,(3) 初発でショック,イレウス,メガコロンなどの合併症を有する重症例,(4) 初回再発例,(5) 2回目再発例に分け,それぞれの場合において推奨される治療法を提唱している2)